'G線上のアリア'   -   잡문 [雜文]/日本語

真夜中に獨りでバッハの'G線上のアリア'をジャズ演奏で聽く。
バイオリン演奏曲として作曲されたそうだが、私はチェロで聽くのが好きだ。
しかしジャズ編曲も變わった味で悪くない。

この曲には想い出がある。
ずっと昔のことだが、片想いをしていた人を諦めなければならない場面に
出會った時, 耳に入ったのがチェロ演奏の'G線上のアリア'だったのだ.

OLの頃だったが、朝の出勤バスでしばしば出會う、長兄に似た男を見つけて,
たちまち片想いに落ちたことがある。長兄のようにすらりと背が高いので、
混むバスの中でもすぐ眼についた。ちょっと波打つように額へ垂れた髪、
涼しげな二重瞼の眼、ちらっと見るだけで胸ががどきどきするほどすてきな男で、
彼と同じバスに乘って出勤したことだけで、その日は陽氣になり、
仕事にまで精を出すほど私は純情な乙女だった^^;

出勤時間が同じだったのか週に2~3度は必ずバスの中で見かけた彼の姿が
何時からかぷっつりととぎれてしまった。なんか裏切られたような悲しい日日が續いた。
當分の間は、今日は、今日こそ、と祈る氣持でバスに乘ったが、日が經つと共に
それも薄れ、だんだん彼のことを忘れかけていたある休日のことだった。
親友と映畵を見た後、最寄りの喫茶店に入ったら、窓際に彼が坐っているではないか。
釘付けになっている私の袖を親友が引いて坐らせた。
私はコーヒーを注文しながら恐る恐る彼をうかがった。
顔に微笑をたたえて向かい側の女と話を交していた彼と眼があった。
彼がちょっと驚いたような表情を浮かべ軽く頭を下げるのと、女が振り向くのが
同時だった。私はびっくり仰天してお辞儀を返しながら、上品な女の顔に気圧された。
ーああ、彼も私を見ていた, 覚えていたのだ, と胸がわくわくするのも束の間、
やがて彼が女をうながして立ち上がり、女がこちらに身を廻したとたん
私は打ちのめされてしまったのである。女のお腹が大きく突き出ていたからだ。

彼が女を支えてドアの外に消えるまで私は下を向いていたが、
あの時ホールに鳴り響いていたのが'G線上のアリア'だった....