旅にはいつも雨を伴なってた.....

彼の旅にはいつも雨が伴いました.
出張にも旅にも里歸りにも，常に雨と一緖でした.

彼が橫たわっている場所へ參る日,
家を出る時は, どんよりと曇ってはいても雨が降りそうな氣配は無かったはずが
晉州空港へ着いて見ると大雨が降りまくっていました.
午後, 彼を訪れる豫定だったのを, やむなく翌日に持ち越し
雨に震えている海を限りなく眺めて居ました.
バカンスシ－ズンも終り, 閑散とした東洋のナポリと自稱する海岸.....
萬感が入り亂れます.

朝早く獨りで散步に出掛けました.
濃い霧が立ちこみ, 一寸の前も見分けられません.
海に沿って作られた遊步道路を步きながら，フェンス越しに波打つ潮騷を聞きます.
ヴ－とうなる汽笛が近付くと, かすんだ海におぼろげな形體が徐徐に移動します.
こんな曉の海は生れて初めて見るので, 感動のあまり身ぶるいしました.

前日の暴雨できれいに洗われた山はすがすがしかったけれども，
生乾きの小道がすべすべして， うっかり足を踏み損うと
泥んこに臀もちをつきそうで，恐るおそるはい上りました.

鬱蒼と繁った山の中で, 木もれ日を浴びつつ，彼は靜かに眠って居ました.
私は，"こんなに遲くなってごめんね"と謝まりました.
それから安堵しました.
愛する兩親の許へ歸り, 安心して永眠に入ってる所を，この目で確かめたからです.

午前中あれほどかんかん照っていた太陽が，空港へ向う途中雲の中に顔を隱し
飛行機の座席へ着いてみると，小さな窓ガラスに絶え間無く雨水が流れ落ちるのでした.